シリーズ1「言葉とこころのサイエンス」…正高信男先生第1回 乳児から幼児へ 子どもはどのようにして言葉を獲得するの?
赤ちゃんが生まれてはじめて単語を話し始めるのは、1歳のお誕生日ごろが目安。では、ヒトはどうやって言葉を獲得していくのでしょうか。気になる疑問を京都大学霊長類研究所助教授、正高信男先生にお聞きしました。
メロディーのように旋律で言葉を理解するのが最初のステップ
ヒトの聴覚器官が形成されるのは、受胎して4カ月ごろ。つまり、人間は胎児のころからすでに外界の音を聞いています。そのなかでもいちばんよく聞こえるのが、お母さんの声。ですから、生まれたばかりの赤ちゃんでも、お母さんの声というのは、だいたいわかるようになっています。
とはいえ、いくらおなかの中で言葉を聞いていても、それが生活体験と結びついているわけではありませんから、もちろん、言葉の意味はわかっていません。大人のように言葉のひとつひとつの音を引き離して音節として理解しているのではなく、むしろ、「あああ~」といった声の調子や高低、強弱の調子など、メロディーのように旋律として言葉をとらえているといったほうがいいでしょう。これが、言葉を獲得するといった意味での最初の段階になります。
そして、生後6~8週ごろ、それまでは声をたてるといえばひたすら泣くだけだった赤ちゃんが、「アー」とか「クー」とか、泣き声以外の声を発するようになります。これは「クーイング」と呼ばれる、言語的音声の前段階。やがて「アーアーアー」など音節が複数に分かれ、生後6~8カ月ごろになると、今度は「バババ」「ダダダ」など、複数の音節と、母音と子音の構造ができあがってきます。専門用語では「基準喃語」といい、この時期を過ぎると、「ジャーゴニング」と呼ばれる時期へ。これはまわりで聞いていると、あたかもお話をしているようなイントネーションをいい、そのイントネーションは母語とほぼ同じです。
世の中のできごとを言葉で表現できる&認識できる3歳代
ひとり歩きができるようになると、赤ちゃんののどの形は縦長になって、ほんのわずかな数ですが、意味のある単語を言えるようになってきます。たとえば、赤ちゃんはおなかの中にいたころから、音としてたくさんの言葉をストックしてきていますから、「イヌ」という単語も音としては覚えています。次に、外界にある特定のものをさして「イヌ」と呼ぶんだという生活体験と、自分が覚えた音の関係がわかるようになってはじめて、「イヌ」と言えるようになってきます。これは、モノには名前があるのだということを、赤ちゃんが認識してきた表れ。そして、「イヌ」は吠えるとか、走るとか、犬の動きにも名前があることを知り、世の中のできごとを言葉で表すことができるとわかるようになるのが3歳ごろです。つまり、言葉は音と生活体験が結びついてはじめて、獲得できるものといっていいでしょう。

NOBUO MASATAKA
正高信男先生
京都大学霊長類研究所教授、比較行動学専攻。著書に『0歳児がことばを獲得するとき』(中行新書)、『ことばの誕生』(紀伊国屋書店)、『子どもはことばをからだで覚える』(中公新書)、『ヒトはなぜ子育てで悩むのか』(講談社現代新書)、『父親力』(中公新書)など。




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