シリーズ2「お父さんの出番です!」…内田伸子先生第5回 きちんと食べて、きちんと暮らすこと
「きちんと育児する」こととは、結局「きちんと暮らす」ことなのでは?シリーズ最終回は、食や生活のさまざまな場面で、「手をかける」ことの大切さについて伺いました。
我慢できない大人たち
とにかくいま大人も子供も我慢できなくなってますから。
というか、大人が我慢できないから、子供も我慢しようがないのでね。
ビデオショップかなにかで夜遅くまで、若い夫婦が、ほんの2歳か3歳くらいの子をつれている。レイトショーなんかにも子供をつれていく。びっくりしちゃいますよね。
きのうも私、22時くらいにね、ちょっとお腹が空いたので、おそばをたべようとお店に行ったら、その時間にね、3歳の子をつれたお母さんがいるんですよ。保育所が終わったので、帰りはここで食事をしていくって言って。でも22時といえば、子供は寝ている時間ですよ。
やっぱり日の出とともに起き、日の入りとともに寝るというのが、赤ちゃんとか、幼児の初期の子供にあるべき暮らしで、そのなかで睡眠と覚醒のリズムがつくられていくことが、本来、子供の発達にとってはすごく大事なんですね。
サーカディアンリズムがうまく形成されないと、じつは賢くならないというかね、大脳基底核とか、睡眠の中枢とかがうまくつくられません。
大脳皮質の成長にも影響を与えるし、身体のリズムは基本ですからね。
そこの土台をちゃんとつくっておかないと。
それから、ある時期、たとえばハイハイみたいなことをやることが、じつは大脳皮質を成長させることに、間接的ではありますが、つながりをもっているんですね。
だからハイハイしないですぐ立った、と喜ぶお母さんもいらっしゃるんですけれど、じつは逆で、ちょっとアンヨが遅いくらいのほうが神経系発達にとってはよかったりする。充分と移動運動をすることが、大事なんですね。
それぞれの得意・不得意でやればいい
それでは、女性が仕事するように変わってきた時代、
父親はどう変わっていけばいいのでしょう。
なにも全然かまえる必要はなくて、生活の営みを、それぞれの得意なところでやっていくというスタンスで、やっていけばいいと思うんですよ。
男性でもお料理の好きな人っていますよね。でもお皿洗いはだめとか。
それぞれそういう得意不得意を出せばいいんじゃないかと思うんです。
やっぱり奥さんだって働いているわけだし、本も読みたいし、病気になることもありますよね。そういうときは、全部まかせてしまうとか。
特に、男の子を持ったお母さん方には、生活者としての生活力をつけさせてあげてほしい。
「あなたはもう勉強していればいいのよ」「ほら、部屋で宿題しなさい」
ではなくて、台所で料理をつくるとか、一緒に野菜の皮をむいたりとか、そういうことを、小さい頃から、男の子女の子の区別なく教えていくことが大事。
そういうところで身に付いた感覚によって、将来おいしいものを食べたりしたときに「これつくってみようかな」と、なったりするじゃないですか。
基本ができていないと、どうやってつくるのか想像もつかないでしょ。お味噌汁みたいな簡単なものでも。
食と子育て
特に食というのは、子供に対してどのくらい配慮しているかの、ひとつの象徴的な表現なんですよね。
食べるものに対して、「心を使う」こと。
いいもの、なるべく無農薬のものを与えて、とか、食べ物に気を使うってことは、子育てにも気を使うということですから。
私の友達の岡村佳子さんという十文字女子大の教授は、「食心理学」というひとつの領域を立ち上げました。
私と一緒に「乳幼児を育てる」(岩波書店)という本を書いている方なんですけど、彼女は以前、浜松でカウンセリングをやっていて、うまく子供が抱けないとか、かわいく思えないとか、子育てが苦痛でしょうがないという母親が通ってきていた。聞いてみると、そういう母親は、食事も既製品だけを出していたりする。ところが、カウンセリングを続け子供の遊ぶ姿を観察させたりしていくうちに、手作りの食事を出すようになる。そのときの経験から、食は子育ての中身にも関わってくるんじゃないかと思ったらしいんです。
私も、食というのは大事な営みだと思います。命をつなぐためにも。
単に栄養素のためではなくて、お母さんや作り手の愛情が入ってくるものですよね。食育といいますけれども、食事を通して、会話やコミュニケーションも生まれてくるものですからね。
「手をかける暮らし」をもういちど
だから親たちも、簡単に電子レンジで冷凍食品をチンして、じゃなくて、
やっぱり「手をかける暮らし」をもういちど取り戻したほうがいいと思うんです。
私だって子供の頃は、黙って立てば、ドアが自動であいてくれるといいな、とか、ひねるとお湯がでるといいなとか、思ってました。いまではぜんぶ実現してますでしょ(笑)。
ご飯だって、昔はそれこそ薪で炊いて、新聞紙でふいて、なんてことをしていたのに、いまはスイッチひとついれればいいわけですからね。そこで節約できたぶんを、どこで手をかけるか。やっぱり子育てにかけなくてどうするんだ、と思うんです。
きちんと食べて、きちんと暮らして、きちんとコミュニケーションをとりあうことが、これからの育児に大切なことなのではないでしょうか。そのためには、ますますお父さんの出番が増えていくと思うんですよ。

NOBUKO UCHIDA
内田伸子先生
お茶の水女子大学理事・副学長(同大学院人間文化創成科学研究科教授兼担)
子どもの発達心理、および言語発達にくわしく、
著書に『ごっこからファンタジーへ-子どもの想像世界』(新曜社)、
『子どもの文章-書くこと考えること』(東京大学出版会)、
『リスク社会を生き抜くコミュニケーション力』(金子書房)ほか、多数。
乳幼児期の心の発達や子育て支援についての講演を行い、保育者や母親たちの「応援隊」として活躍中。





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