2011.07.06映画『うさぎドロップ』を語るイクメン座談会
参加者(敬称略)
特別ゲスト サトシン(絵本作家)
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オブザーバー 大畑利久(ショーゲート・映画プロデューサー)
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| 長谷川潤(イクメンクラブ代表理事) | 長沼朋宏(イクメンクラブ理事) |
| 船木成記(イクメンクラブ イクメンラボ研究員) | 品川泉(新学社・「ポピー」編集部) |
オブザーバー 大畑利久(ショーゲート・映画プロデューサー)
★うさぎドロップあらすじ
祖父が亡くなったことで久しぶりに訪れた実家で、27歳・彼女なしの青年ダイキチは一人の不思議な6歳の少女と出会う。実はその少女・りんはおじいちゃんの隠し子だった・・・。
りんを施設に入れようと言う親族たちの意見に反発したダイキチは、ついうっかり、りんを自分が引き取って育てると宣言してしまう。そしてその日から、不器用な男としっかり者の少女とのちょっとちぐはぐな共同生活がスタートする。慣れないながらも一生懸命にりんを育てようとするダイキチと、徐々にダイキチに心を開き始めるりん。二人の姿は観る者すべての心を温かくする―。
祖父が亡くなったことで久しぶりに訪れた実家で、27歳・彼女なしの青年ダイキチは一人の不思議な6歳の少女と出会う。実はその少女・りんはおじいちゃんの隠し子だった・・・。
りんを施設に入れようと言う親族たちの意見に反発したダイキチは、ついうっかり、りんを自分が引き取って育てると宣言してしまう。そしてその日から、不器用な男としっかり者の少女とのちょっとちぐはぐな共同生活がスタートする。慣れないながらも一生懸命にりんを育てようとするダイキチと、徐々にダイキチに心を開き始めるりん。二人の姿は観る者すべての心を温かくする―。
絵本作家サトシンさんと共に語る(参加者自己紹介)
| 長谷川 | 今日はお忙しい中、お集まりいただきましてありがとうございます。8月20日に映画『うさぎドロップ』(配給:ショーゲート)が公開されます。この映画をもとに、広く子育てについて、話をしていきたいと思います。そして、今日は特別ゲストに、絵本作家のサトシンさんをお迎えしています。サトシンさんは、現在、絵本を10冊ぐらい手掛けられている人気作家なんです。「おてて絵本」という、てのひらを本に見立ててお話をつくる親子遊びを発案され、全国で講演や活動もされています。また、絵本『うんこ』で去年の絵本賞を5つ受賞されています。サトシンさん、よろしくお願いします。 |
| サトシン | よろしくお願いします。 |
| 長谷川 | まず、どんな形で子育てと関わっているかを含めて、自己紹介をお願いします。 僕自身は、イクメンクラブ代表として活動しています。家族は、専業主婦の妻と、小学校3年生の女の子と3歳の男の子。どちらも保育園・幼稚園などには通わずに、保育者といっしょにお母さんたちが取り組んでいる青空自主保育に参加していて、野山をかけまわって育っています。仲間の子どももみんな、かわいくて、彼らといるときは幸せです。 |
| 長沼 | イクメンクラブメンバーの名刺の裏側に印刷されているのですが、「イクメンアクション6」というのがあります。①10分はやく起きてみる、②朝ごはんをいっしょに食べてみる、③出勤前に3秒だっこしてみる、④こどもの前でお母さんをホメテみる、⑤1日1回こどものこともホメテみる、⑥家族のためにちょっと早く帰ってみる――というものなのですが、⑥以外は僕も毎日実践しています。子どもは上が4歳で下の子が2歳。どちらも女の子でなかなか生意気になってきました。最近、2人にイジられるのが、だんだん快感になってきました(笑)。毎日、そんなパパをやっています。 |
| 品川 | 私は出版社で子ども向けの教材を編集する仕事をしています。共働き家庭で、5歳の女の子の母親でもあり、毎日保育園への送り迎えをしながら通勤しています。時間がなかなかとれない中で、夫と共同作業で子育てしています。夫にも子育てを協力してもらわないと、一人ではとても回らなくて…。 |
| 長谷川 | ワーキングマザーである品川さんのお話は、共働きのお父さんやお母さんに共感してもらえそうですね。 |
| 船木 | 僕は2007~2009年に内閣府に出向して、男女共同参画やワークライフバランス、少子化対策などの仕事に携わっていました。子どもは、上は小学校3年、下は4つでどちらも女の子です。自分は男兄弟だったので、現在は真逆な女性ばかりの家庭の中で、どうも微妙に居場所がない感じです(笑)。目下の懸案事項は「上の子がいつまでお風呂に一緒に入ってくれるかな?」と(笑)。 |
| 長谷川 | 小学校4年生が分かれ目だとよく聞きますね(笑)。 |
| サトシン | 僕はコピーライターだったのですが、40歳を過ぎて、自分が本当にしたいことをやろうと絵本作家になりました。20年近く前になりますが、子育てに専念していた時期もあります。妻は看護士をしているんですが、長女を出産し、育児休暇が終わる頃、これからどうしようかという話になり、「俺が子育てしようか」と申し出たら、「やった!ラッキー!」と過剰に喜ばれ、引くに引けなくなっちゃった(笑)。妻の両親からは「何をやってるんだ」と怒られましたけどね。そんなわけで専業主夫の時代もあり、いろいろ経て今に至るという感じです。子どもはもう成人して、21歳と20歳と13歳。今では、「お父さんが一番子どもだね」と言われます(笑)。 |
| 長谷川 | サトシンさんの子育ては、かなり時代の最先端をいってますよね。 |
| サトシン | 僕の時代は、男が子どもの面倒をみるって、ジョン・レノンぐらいしか聞いたことがなかったですねえ。 |
| 大畑 | 僕は『うさぎドロップ』の企画編成担当をしています。今年1月に子どもが生まれました。妻は家で仕事をしていますので、僕も可能な限り協力して家事全般をやっています。毎朝6時起きして、お風呂からトイレ、部屋隅々まで掃除して、洗濯して干してと…最近、ようやく慣れてきました。 |
| 長谷川 | すごい、まさにイクメンじゃない! |
| 大畑 | だから他の皆さんのケースはどうなのかなって、今日のお話はすごく興味あります! |
『うさぎドロップ』はハートウォーミングな映画
| 長谷川 | 『うさぎドロップ』は男の育児をテーマにしていますよね。僕も父親の観点で見ましたが、子育てが大変で云々というよりも、子どもを見守る社会の暖かさに気付かせてくれる、ヒューマンな映画だなと思いました。ぜひイクメンや、働くお母さんやイクジイなど子育てに関わっている人、みんなに見てもらえたらいいですね。 | ![]() |
| 船木 | 僕も優しい映画だなと感じました。それに、ところどころで泣けるんだよね。 | |
| 品川 | ホント、子どもがいると涙腺がゆるくなりますよね。 | |
| 長谷川 | 東日本大震災を経て、世の中の価値観がゆさぶられました。人と人のつながりや他人への優しさといった良心が、以前よりも表面に出てきていますよね。この映画も、そこに気付かせてくれますね。 | |
| 長沼 | りんちゃんが、おにぎりを作ってくれるシーンがある。塩をかけてね。あれには、ほろっときましたね。僕も娘にやってもらったことがあるんですよ。子どもがいる生活って、ハッピーでハートウォーミングな感じで楽しいんですよね。この映画はそのことに、改めて気付かせてくれた。それに、たくさん元気をもらいました。 | |
| 品川 | 子どもって、時に小さい大人みたいですよね。一人の人間として、子どもと関わっていこうという意味でも、すごくいい映画だと思いました。 | |
| サトシン | 僕と一緒に試写を観た娘は、「これは小さい女の子に大人が翻弄されるところを見せたい映画なんじゃないかな」って分析してました。「エラソウに!でも、そうかもね」と思いました。そこからいろんなドラマが始まっていくでしょう。 | |
| 船木 | 僕はこの映画を拝見して、実はイクメンのドラマだって思わなかったんですよ。子どもと一緒だと、大変なこともあるけれど、とっても楽しいよね、と伝えたい映画と感じました。ダイキチの目の前に、異星人のような子どもが突然現れて、日常生活の様々な場面で戸惑ったり、迷いながらも本気でりんちゃんに向き合っていくところは、すごく共感できました。僕も上の子が小さい頃は、駅から家まで15分ぐらいの道をだっこして歩くのさえ、「この子を落っことしたらどうしよう」とドキドキしてたし。 | |
| サトシン | 確かに、ダイキチみたいな27歳の独身サラリーマンからしたら、ある日突然、大荷物を抱えこんで、「どうしようか」っていう毎日ですよね。僕も困ったことが起こった場合には、自分が手を挙げて背負ってしまうタイプなんで、冒頭は共感しちゃった。時々、後悔したりもするけれど、でも、自分が関わっていくことが心地よかったりもするんですよね。 | |
映画がうらやましい? 実際の子育ては…
| 品川 | 映画だからという部分で、松山さん演じるダイキチが、苦労して保育園を見つけるのですが、実際には、通勤路の途中にある保育園が見つかるなんて、本当に羨ましいと思いました(笑)。今、保育園を探して子どもを入れるのは大変なんですよ。働く母親たちはそういうことでも苦労していますからね。 | ![]() |
| サトシン | それに、りんちゃんって、すごくいい子なんだよね。 | |
| 長沼 | そうそう。「おじいちゃんにどうやって育てられたのかな?」と思いますよね。 | |
| サトシン | 素直でカワイイし、大人の言うことはちゃんと聞くし。すんごい手のかからないラクな子どもなんですよ。 | |
| 大畑 | 僕は子どもが生まれる前に観たので、育児ってこんな感じなのかと思いました。でもいざ、子どもが生まれたら、やっぱりホント大変で、むしろ、りんの年代からだと手がかからなくていいなとちょっと思いました(笑)。なぜ泣いているのかも分からないし。「おむつかな」とか「ミルクかな」とか、おろおろしちゃいますからね。 | |
| 全員 | りんを育てたおじいさんはエライよね。まさにイクジイだね。 | |
| サトシン | あんな子だったら、うちも子どもがもう一人いてもいいかなと思っちゃうぐらい(笑)。この年頃の子は普通はね、ヘンなところで言うことを聞かなくなったりとか、今までニコニコしていたのに急に機嫌が悪くなったりするの。そういうところで、父親は汗かいたりするんだよね。 | |
| 船木 | 思うとおりには決してならないし、こっちがイライラすると彼らは敏感だから余計にそうなるんだよね。「もう時間だから行かなきゃいけない」という時に限って、こっちの気持ちを見透かしたように暴れたり(笑)。 | |
| サトシン | そうそう、「もう一冊、絵本読んで」とか言い出すし。 | |
| 船木 | ものの見事に、想定外の言動をとる。そういうことも含めて面白いんだけれど。 | |
| サトシン | 子どもを育てていると、うんことかおしっこが汚いって思わなくなるでしょう? それまでは、手に付くことなんて考えられないし、「すぐに洗わなきゃ」ってなるけど、子どもは毎日、目の前でしますからね。僕なんて、素手でうんこキャッチしたこともありましたよ。 | |
| 全員 | え~っ! それはすごい! | |
| サトシン | 子どもって、おもらしを大人に見られると怒られるって思ってる。だから汚れたオムツやうんこを押し入れの布団の間に隠したりもするんだよね。それが逆に大惨事なの(笑)。子どもといると、そういう日々のビロウな話もいちいち「汚い」とか言ってられなくて、それも含めて、楽しんじゃおうかなとは思ってましたね。 | |
| 船木 | そう、そう。トイレから「パパ~!」という叫び声がするので、びっくりして行ってみると、「拭いて!」とお尻を突き出して待っていたりする(笑)。 | |
| 全員 | ああ、あるある。 | |
| 長谷川 | うちでは、お尻を拭く時に「ジジジジジ!」と言ってふざけてやっていたら、いつの間にか、「ジジジジして!」と言うようになっちゃった。そうやって拭いてもらうのが気持ちよかったらしく、僕も楽しんでやっていました。これは、父親流かもね。 品川 確かに、母親とは違う観点ですよね。 | |
| 長谷川 | 『うさぎドロップ』では、最初、ダイキチにとって、りんはまるで宇宙人で、全く受け入れられなかったけれど、一緒に日常生活を重ねるうちに、徐々に関係が深まっていく。徐々に親子になっていくんですよね。 そもそも、父と子の関係って、最初から親子の一体感がある母と子とはちょっと違う。ダイキチの進化は、見事でしたね。最後は、ケータイの待ち受け画面にりんの写真を、入れて人に見せたくなったり。これって、子どもを持つ親にとってはツボですよね。皆さんもやってるでしょ? |
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| 全員 | やってますよ。 | |
| 品川 | 時々、「親バカっぽいかなあ」とも思うんですけど。 | |
| 船木 | 僕は恥ずかしさがちょっとあって逡巡してたら、妻に「どうして入れないの?」と言われました。でも待ち受けにしてみると、みんなに見せたくなっちゃう自分がいたりして。 | |
| サトシン | あ、ごめん。うちの子育て時代は、ケータイがまだなかったよ(笑)。 | |
子育てと仕事のバランスをどうとるか?
| 長谷川 | ダイキチの母親が「あなたを育てるのに、私の人生をどれだけ犠牲にしたと思ってるの!」って言うシーンや、会社の同僚が「どうして河地さんが犠牲にならなきゃいけないんです」と言うシーンがあるでしょ。 | |
| 船木 | このセリフの問いとして、「子育ては親の負担になる、親は何かを犠牲にして、子育てしているって、みんな思ってる?」ということだと思うのですが。。。 | |
| 大畑 | 僕も子どもが生まれるまではどこかでそう思っていて、「新しい仕事を覚えるまで子どもはいらない」って妻に宣言していたんだけど、翌年にできちゃったんです(笑)。 | |
| 全員 | ああ、そんなものですよ。 | |
| 長沼 | でも実際、そうなったら、いいことがたくさんありますよね。 | |
| サトシン | 僕は、子どもと関わっていることも含めて僕の人生だと思っています。仕事をしているのも、子どもと向き合っているのも僕であって、分けることはできない。だから、「子育てによって自分が犠牲になる」とか聞くと、カチンときますね。親にそういうことを聞かされる子どもだってどんな気持ちになるか、考えてみてほしい。 | |
| 長谷川 | 子育てって不条理な部分もあるし、白か黒かはっきりできないでしょう。妻を見ていても、何かを犠牲にしていると思う時もあるし、それ以上に満たされている部分もあって、悔しいなと思うこともある。両方あって、割り切れないのが子育ての本質かなと思いましたね。 | |
| 船木 | ただ、ダイキチがそれまでの職場を離れてしまうのは、ちょっと残念でしたね。ワークライフバランスなんかが注目されている今なら、もっと柔軟な働き方もあるし、描き方としてもったいないなと思いました。 | |
| 長沼 | 家庭の事情で、仕事を、会社生活を変えてしまいましたね。 | |
| 品川 | 私も、ダイキチが職場を変わらずに、残業もたくさんある部署で働きながら、子育てをしていくのを見たかったです。早く帰宅しにくい部署でキッパリ帰る勇気を持つことも一つの課題だと思うんですよ。私自身も、子どもが保育園で待っているので、周囲の人が残業していても、5時で帰宅します。やっぱり勇気が要りますし、割り切るまでに、時間が掛りました。でも今は、「私には次の時間がある」と割り切って席を立ちます。 | |
| 長谷川 | さすがワーキングマザーはシビアですね。 | |
| 大畑 | ただ現実には、まだまだそういうことを認めてくれない会社や環境が沢山あるわけで・・・。特に男性社員に対しては。だからある意味、映画はリアルで、職場を変えないと、どうしても育児はできない。 | |
| 長谷川 | イクメンクラブでは、「イク時帰宅」といって、育児のために早く帰宅することを推奨しています。残業しないで帰れば、子どももお母さんもうれしいのでは。 | |
| 長沼 | これがなかなか難しいんだけれどね。 | |
| 船木 | ワークライフバランス的に言うと、職場の環境の方をみんなで変えていくことなんですよね。これからは、各人が持つ家庭の事情を職場に持ち寄って、皆でシェアしながら、フレキシブルに仕事ができるような環境に変わってゆくとよいですね。子育て世代だけでなく、ご両親の介護など、誰だっていろいろな事情があるはずですから。 | |
| 長谷川 | 欧米は職場環境が整っていて、そうした方が仕事も効率的という意識だけれど、日本の社会はそれを認める風潮になってない。だからそういう努力がまだまだ必要ですね。 | |
| 品川 | ダイキチの会社も「5時で帰ってもいいから、この部署で働いてほしい」って言ってもらえたら、どんなによかっただろうと思います。 | |
| 長谷川 | 本当に。これからの社会はそういう風になってほしいね。 | |
| サトシン | 僕の子育て時代は、当初ほぼ専業主夫に近い状態だったけれど、徐々にコピーの仕事を頼まれるようになり、子育てしながらなし崩しにフリーのコピーライターになっていったんです。仕事の打ち合わせには、リュックにおむつやミルクを詰めて、子どもをおんぶして出掛けました。その姿を見て、「じゃ、こういう仕事もできる?」と、子ども向けの仕事がくるようになった。陰ではいろいろ言われていたかもしれないけれど、面と向かってはあまり非難されなかったですね。むしろ、「大変なことをやって、頑張ってるね」って労ってもらえました。 | |
| 長谷川 | サトシンさんみたいな考え方って、柔軟でいいですよね。Fathering japan代表の安藤哲也さんが「寄せ鍋型の人生」を提唱していて、お父さんは、仕事のほかにも、家事・育児や地域活動にどんどんトライしようと。それぞれのバランスをとるのではなくて、自分を大きな鍋に見立てて、全部ぶち込んでグツグツ煮こめば、人生がおいしくなる。完璧を求めずに、どれも楽しんでやっていこうということなんですよ。 | |
| 品川 | 映画の中で、りんが友達のコウキと話すシーンで、コウキが「『男はいい加減でいい』ってお父さんが言ってた」と言うと、りんが「ダイキチもいい加減だよ」って言う。同じように母親もいい加減でいいと思うんですよ。 | |
| サトシン | 僕の場合は、今考えると、男だから労わられていたのかなとも思う。男だと「おしめも替えるなんてすごい!」とか、育児では当たり前のことがすごく褒められるんですよ。でも、女の人は、子どもに関わるのは当たり前のように思われているじゃないですか。 | |
| 品川 | 女性の立場だと、育児を全部自分でこなさないと、周りの人に迷惑かけている人、と思われてしまうんです。だから、お母さんたちは、「頑張ってちゃんとやらなきゃ」って思ってしまう。するとすごく大変なんですよね。でも、ある時「完璧じゃなくてもいいんじゃないか」って思ったら、私もすごくラクになりました。働いていると、8割ぐらいでOKにしないと自分が壊れてしまう。夫にもそれを認めてもらって、夫も8割の力で育児にあたる。それに、「手抜きをした方が子どもはホッとする」と聞いて、うれしかったです。 | |
イクメンをゆるく、とらえよう。
| サトシン | 僕は講演やワークショップでいろいろなところに行って、お母さんやお父さんに会うんですけど、「イクメン」という言葉を嫌っているお母さんが意外に多いんですよ。こういう言葉ができて、男性の子育てがムーブメントになったり、広がってきたのはいいことだと思うんだけど、「男親ばっかりいい感じに言われている。私たちは今まで育児を当たり前にやってきたのに!」という考えなんですよね。 | ![]() |
| 船木 | そうだよね。あと「イクメン」っていうと、しっかり子育てをしている男性というイメージがあるけれど、「イクメンか、イクメンじゃないか」という論争は早くやめたいと思うんですよね。 | |
| 長谷川 | 「イクメン」という言葉が普及していく過程でその手の話はありました。「おむつの交換をするくらいで、男の人って、イクメン気取りでいいわね」みたいに言われるとかね。でも、そうやって議論が沸き起こったり、お母さん側の意見が出たりして、話し合いが続いていくのは、悪くないと思います。 | |
| 船木 | イクメンって「子どもと一緒に遊ぶのが楽しい」くらいでいいんじゃないかな。 | |
| 長谷川 | あまり定義せず、むしろ、いろんな子育てのやり方や父親の関わり方を応援したい。イクメンの多様性ですよ。ダイキチみたいなイクメンもいれば、ゆるゆるのイクメンもいる。どれが正しいということではなく、子どもを真ん中にして、互いの生き方を認め合うのがいいんじゃないかな。 | |
| サトシン | 僕は子育てを一応、いろいろやってきたけど、なるべく手抜きしようと思っていたんです。部屋の掃除なんて1週間やらなくたって死にゃしない。ごはんだって、毎食ちゃんと手作りじゃなくたって、時にはラーメンでもいい。生活の知恵としては、外食する時は、直前にポテトチップスをたくさん食べさせる! そうすると、回転寿司に行ってもそれほど食べないの(笑)。こんなの、真面目に考えたら、子育てなんてとても言えない。でも、僕が一番大切に考えていたのは家事を完璧にこなすことではなくて、カミさんや子どもとコミュニケーションをちゃんととることだったんです。テキトーに手を抜くことで、一緒にいられる時間のことを第一に考えられる。そのためには、いろんなやり方があってもいいのかなと思いましたね。これ、言い訳に聞こえるかな。 | |
| 長谷川 | それは素敵な考え方ですね。うちは普段、ポテチみたいのはあまり食べさせていないほうだと思うんだけど、オヤジ仲間の集いなんかでは、たき火なんかして、酒のつまみで、さきイカみたいのが出てくるでしょ。子どもはそれを食べたくてしょうがない(笑)。オヤジたちも「食べろ、食べろ」ってすすめる。だからその時ばかりは特別(笑)。そういう時間や空間っていいなと思うんですよ。 | |
| 全員 | そうですね。 | |
| 長谷川 | 親子だけで閉ざされた中で向き合っているのはとてもきゅうくつ。ダイキチだって、社会という広いうつわの中で救われていくわけで・・・。映画のラストシーンでちょっとしたハプニングがありますよね。もう"ひとごと"じゃないんです。どこかハッピーな気持ちになれたのは、子どもを取り巻く環境の安心感のようなものかも。 | |
社会の皆で子どもを育てる
| 船木 | 僕がすごく共感したのはダイキチの「親になると、強くなるもんだと思ってた。でも、子どもをもつと臆病になるんですね」という言葉ですね。この気持ち、よく分かるし、泣けました。 | ![]() |
| サトシン | 一人目の子どもの時なんて特に、経験もないし、オタオタすることもたくさんある。2人目以降になると、ずいぶん慣れてくるけどね。 | |
| 長沼 | 僕も、ダイキチがりんをだっこして、ダッシュで保育園まで走るのを見て、あんな風に頑張ってた自分や、うろたえながらもそれを楽しんでる自分を思い出して、感慨深かったです。子どもがいる生活ってすごく楽しいし、優しい気持ちになれるんですよね。今は子どもがいることに慣れて、そんな思いが少し薄れてしまったかもしれない。ちょっと前の自分の気持ちを気付かされました。それでハッピーになって、子どもと一緒の生活を頑張ろうかなって改めて思えましたね。 | |
| 船木 | 親だけじゃなくて、皆が子どもに対して、もっと想像力を持ってくれていいかなと思うんですよ。子育て世代だけじゃなく、おじいちゃんおばあちゃんにも、「子育て時代は楽しかったよね」と思い出してほしい。最初はとまどったり、邪険にしていたダイキチの母親も、最後にはりんの保育園に行ったりして、みんなで笑顔でいるのもすごくいい絵だなと思いました。子どもと大人たちの関係性が、最後にはちゃんと構築されているんですよね。 | |
| 長谷川 | 少し前までは「子育て=孤育て」なんて言われ方もありました。社会から分断されて、孤立した母親も多かったようです。でも今、社会が少しずつ変化してきて、さらにこういうあたたかい映画で見直される部分はありますよね。 | |
| 船木 | 子どもと大人社会の接点、子どもと大人がフレンドリーに溶け込んでいることを、この映画で皆が気付いてくれればいいですね。例えば、通勤電車の中に子連れがいたっていいじゃないかと僕は思うんです。そういう光景が当たり前にある社会になっていってほしいなと思う。 | |
| サトシン | 大人社会の中に子どもの姿はないし、子どもの世界にも、自分の親と保育園や幼稚園・学校の先生以外、大人はいないでしょう。昔のように、公園で一緒に遊んでくれるよそのおじちゃんや、悪いことをすると怒ってくれる近所のおばちゃんもいない。大人と子どもの接点がなくなっていることが、この先どんな影響を及ぼすのか、僕はそれがすごく心配だったりします。今回、この『うさぎドロップ』で、やっぱり大人と子どもが一緒にいるのって楽しいんだな、心地いいんだなと改めて思いました。そういうことをいろんな人に知ってもらうことは大事ですね。 | |
| 品川 | 「子育てって、親だけじゃなく皆でやるものなんだ」って、子どもを産んでから感じることがよくあります。一人の子どもを皆で育てていこう、子どもは親だけの子じゃなくて、世の中全体の子なんだって言う気持ちをこの映画でも感じました。 | |
| 船木 | 実のお父さんじゃなくて、お父さん以外の人が子育てを引き受ける、という設定がよかったよね。もっと広いところで、子どもと関わる面白さを伝えている。 | |
| 長沼 | きっと、そこが誰もが共感できるポイントなんですよね。 | |
| 長谷川 | イクメンクラブも、現役イクメンだけじゃなくて、その予備軍を応援したいと思っているんですよ。 | |
| 船木 | そもそもこの原作の漫画がなぜこんなに読まれてヒットしたのか。こういう子育てとか、「子どもと大人がいる社会」のことを皆が興味を持ち始めたっていうことが重要だよね。 例えば、賛否両論あった「子ども手当」についても、「子どものいる人は得で、いない人は損」みたいな考え方があって、そういう見方だけだと寂しいよね。社会全体の中で子どもを大事にしていく考え方が浸透していれば、子ども手当に対する受け止め方も、損得感情だけでなく、もう少し違ったかなと思いますね。 |
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失った子どもの心を取り戻す
| サトシン | 僕は、義務としてではなくて、本当に子育てを楽しんでいたんですよ。難易度の高いロールプレイングゲームに取り組んでいるような感覚です。予想外のことが起こったり、思うようにいかないっていうのを含めて、自分が関わりながら子どもを成長させていくのがすごく興味深く、面白かった。家事なんかも遊び感覚でやると面白いんですよ。洗濯物を干す時なんかも、「今日は赤系から青系にグラデーションで並べていこう」と決めて干したり、洗濯機の中でぐるぐる回っている自分とカミさんのパンツを「追いかけっこしてるね~」なんて言って子どもと一緒に眺めたりするんです。 | ![]() |
| 全員 | 面白い。こんな遊び心を持ってやると、子どもも喜ぶでしょうね。 | |
| サトシン | 仕事だけしていたら、こういう時間が存在することに気付かない。それはもったいないですよ。ただ、世の中のお父さんが100%子どもに興味を持てばいいかというと、そうではない。それはやっぱり多様性ですよね。いろんなやり方があっていいかなと思う。僕の場合は家族としての必然性があって、子育てをしたっていうだけでね。ダイキチの奮闘ぶりは、すごく共感できるし、現実はもっともっと広がって面白いよっていう部分もあるし、仲間感覚で僕は観てましたね。 | |
| 長谷川 | サトシンさんの領域まで達すると、子育てのレベルがワンステージ上がっていますよね。子どもの目線を持っているというか。でも、それこそが子育ての醍醐味でしょ。 | |
| 品川 | 子どもがいることによって、行く場所も増えますよね。 | |
| サトシン | そう。それが意外に楽しかったりするんだよ。 | |
| 品川 | BB弾を一緒に集めてみたりとか。 | |
| 長谷川 | それね。鎌倉の通りを歩いていて、子どもがBB弾を拾ったの。ところがBB弾のことを僕は知らなくて、「ばっちいから拾うな」って子どもを怒っちゃったの。それで家に帰ったら、ペットボトルに子どもが集めたBB弾がいっぱい詰まってた。それがすごいキレイでね。「なんであんなこと言っちゃったんだろう」って猛烈に反省したんですよ。それからは一緒に拾ってあげるようになりました(笑)。大人はいつの間にか子どもとは全く違ったものの見方ができてしまっているんですね。 | |
| サトシン | 僕は、自分が子どもを卒業して大人になったという意識は全くないんです。昔子どもだった自分がいて、そのまま変わらずに今の自分がいる。そういう感覚でいると、子どもの友達関係の話を聞いても「俺も昔そういうことあったよね」みたいにすんなり受けとめられる。40歳過ぎてから絵本を、なんて好きなことを始めて、その世界を切り開いていけたのも、子どもの感覚でいられたからだと思っているんです。 | |
| 全員 | なるほど。 | |
| サトシン | 子どもって大人が大好きなんですよ。大人に自分の話を聞いてもらいたい。僕が展開している「おてて絵本」の活動の場でも、子どもたちは大人に対して話をどんどんしてくれます。今の時代は大人がそれを受け止めることを忘れているのかな。 | |
| 品川 | そう。いけないと分かっても「今忙しいから、ちょっと待っててね」とか言っちゃうんですよ。 | |
| サトシン | 子どもはこんなに大人を求めているんだってことを意識すると全然違ってきます。それを大人たちが気付いていくと、世の中はもっともっと楽しくなると思います。 | |
| 長谷川 | うん、子どもが作るお話って奇想天外で面白い。すごいクリエイティブ力ですよ。 | |
| サトシン | 目の前のオトナを楽しませようとして一生懸命話すでしょ。 | |
子どもの幸福力で周囲も変化していく
| サトシン | この先、ダイキチの将来はどうなっていくんですかね? | ![]() |
| 長谷川 | 原作の漫画はずっと続いているんですよね。ですから、ダイキチとりんのドラマも続いている。楽しみですよね。 | |
| 長沼 | 家の中の飾りも過剰になってきましたよね。 | |
| 船木 | それはダイキチが本当に子どもに興味を持って、一緒に暮らすのが面白くなってきたって証なんでしょうね。ダイキチの妹のカズミも、最初は子どもと関わることは仕事だとクールに割り切っていたのが、徐々に自分も面白がって関わっていくようになる。 | |
| サトシン | ダイキチの決断と行動によって、周囲の人はみんな気付きがあって、変わっていっているんですよね。 | |
| 品川 | いい方向にいってほしい! いろいろ大変でも、やっぱり子どもっていいですよね。笑顔を見ると、明日からも頑張ろうと思うもの。 | |
| 船木 | 子どもと一緒にいるのが好きな人たちばかりになればいいですよね。ダイキチの両親もいつの間にか家の中で子どもと楽しく過ごしている。まわりの人を笑顔にする、子どもの持っている「幸福力」を誰もがもう一度思い出してくれたりすればいいかな。 | |
| サトシン | この映画を観て、りんみたいな子を育ててみたいと感じる人はいるだろうね。 | |
| 長谷川 | それこそ、"見わたせば世界は愛であふれている"ってことでしょうか。その愛を、この映画でぜひ感じてみてほしいですね。今日は、皆さんありがとうございました。 | |
| (了) | ||
サトシンさんプロフィール
サトシン 絵本作家など。
1962年、新潟県生まれ。広告制作プロダクション勤務、専業主夫、フリーのコピーライターを経て絵本作家に。作家活動の傍ら、コミュニケーション遊び「おてて絵本」を発案、普及活動に力を入れている。絵本の主な作品に「うんこ!」(西村敏雄・絵/文溪堂)「とこやにいったライオン」(おくはらゆめ・絵/教育画劇)「きみのきもち」(相田毅共著 ミスミヨシコ・絵/教育画劇)、「ヤカンのおかんとフトンのおとん」(赤川明・絵 佼成出版社)、「おれたちはパンダじゃない」(すがわらけいこ・絵/アリス館)、「おったまげたとごさくどん」(たごもりのりこ・絵/すずき出版)等。その他著書として「おてて絵本入門」(小学館)、「きいてね!おてて絵本」(扶桑社)等。「うんこ!」で第1回リブロ絵本大賞、第20回けんぶち絵本の里びばからす賞、第3回MOE絵本屋さん大賞、第4回児童書担当者が選ぶ子どもの絵本大賞in九州大賞、第5回書店員が選ぶ絵本大賞受賞。「とこやにいったライオン」で第4回児童書担当者が選ぶ子どもの絵本大賞in九州10位、第5回書店員が選ぶ絵本大賞9位。大垣女子短期大学客員教授。


今日はお忙しい中、お集まりいただきましてありがとうございます。8月20日に映画『うさぎドロップ』(配給:ショーゲート)が公開されます。この映画をもとに、広く子育てについて、話をしていきたいと思います。そして、今日は特別ゲストに、絵本作家のサトシンさんをお迎えしています。サトシンさんは、現在、絵本を10冊ぐらい手掛けられている人気作家なんです。「おてて絵本」という、てのひらを本に見立ててお話をつくる親子遊びを発案され、全国で講演や活動もされています。また、絵本『うんこ』で去年の絵本賞を5つ受賞されています。サトシンさん、よろしくお願いします。







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