笑っている父親が社会を変える。安藤哲也さんインタビュー 第5回

ロックな絵本を読んであげたい。

- 『パパの極意―仕事も育児も楽しむ生き方』
- 安藤 哲也 (著)
- 735円(税込)
- 日本放送出版協会
僕が子供に読んであげたい絵本ですか? そうですねえ、たくさんあるんですけど…。5歳くらいになって考える力がついてきたら、ロックな絵本がいいですね(笑)。
たとえば「綱渡りの男」っていうノンフィクション絵本。ニューヨークに、ツインタワーってあったでしょ、9.11で倒壊してしまったワールドトレードセンターのことです。74年、あそこの上に鉄のロープをかけて、綱渡りをした男がいたんですよ。フランスの大道芸人なんだけども。その男は、ふたつの建物をみると、そこを無性に渡りたくなっちゃうんですね。で、工事現場の人に変装して、夜中にもぐりこむんです。世が明けて、着替えて、天秤棒持って、鉄のロープの上を歩き出すわけ。月曜日のマンハッタン、地上は折しもラッシュアワー。地下鉄の出口をのぼってきたおばさんが、「あそこに人がいる!」って気づいて、もう大騒ぎ。パトカーが来て、「不法侵入で逮捕する!」って言ってるんだけど、誰ものぼっていけないから、彼はそこで、踊ったり寝転がったりするわけ。
やがて「もういいや」って降りてきて、お縄ちょうだいして(笑)、裁判になって。裁判官が「判決を言い渡す」って。で、その判決がまたおもしろいんだけど、そこはネタバレになるから言いませんよ(笑)。
これ、僕にとってはすごい「ロックだなあ」と思うんですね。壮大ないたずらじゃないですか。大人なのに、こんなことやっちゃって。
僕がこれを息子に読むときは、「いいか、将来大人になったら、会社勤めもいいけど“帰りたいのに帰れない”なんてつまんない奴になるんじゃないぞ」。いつまでもそういう壮大ないたずらを考えろと。もしかしたら、それがビッグプロジェクトになるかもしれないだろって。そういうメッセージをこめて、読むんですよ。
お母さんが選ぶいわゆる母性的な、やさしい心を持ってほしいとか、友達を大切に、とか、それももちろん大事なんだけども、それを猫なで声で読むお父さんというのも、ちょっと違うんじゃない?って思うので(笑)。
そういう自分のフィーリングに合った、伝えたいメッセージがあると感じたものを、お父さんは、自分で選んで自分で読んで子供に伝えればいいんじゃないかな。
お父さん自身が笑っていること。
でも別に絵本がすべてだと思わないんですよ。「絵本苦手なんだよね」というお父さんは、絵本じゃなくてもいい。たとえば車が好きなお父さんなら、車の雑誌とか新車のカタログでもいい。たぶんそれ読んでるときが、いちばんあなたはいい顔してると思うよ、そういうお父さんの笑顔を子供は待ってると思うから、それをツールにしちゃえばいいんじゃないって。
「絵本は子供にいい」っていう目的意識に縛られちゃうのは、まさに教育パパの初期症状みたいなもんだから、そうじゃなくて、コミュニケーションを楽しむためのツールって考えれば、絵本に縛られることはないよね。
つまりお父さん自身が心底笑って生きているってこと、「指示待ち」ではなく、主体的に、積極的に、自分なりの軸を持って生きてることが大事なんですよね。軸がしっかりしていれば、どんなことがあってもブレない。
いまのお父さんたちは、なんかブれまくってるっていうかさ。家では奥さんの言葉にブれ、子供の反応にブれ、会社行けば上司言ってることにブれ、サブプライムローンにブれ、偽装疑惑にブれ(笑)どこまでブれちゃうのって。
本当はね、お父さんたちもわかってると思うんですよ、こんなこと僕に言われなくても。みんな、「そうだよね」って言うから、こういう話すると。あとは限られた時間のなかでどこまでやるかっていうことだけだと思いますよ。
子供の受験にキリキリする親たち。
べつに、他のお父さんが育児やろうがやるまいが、僕は別に困らない(笑)。ただ、その人の子供は、ある意味、社会の宝なわけですね。地域の子は、仲間の子供だと思って接してるし、血がつながっていなくても子供の未来に希望を持たせるのは家の中も外もない。子供って未来の社会をつくる人たちだから、それを地域の仲間と一緒に育んでいけたらいいんじゃないかなって。
子供も自分の父親だけに支配されるとつらいからね。2年前に起きた奈良の長男放火殺人事件の父親みたいな人がね、僕はこれからますます増えてくると思うんですよ。
当時僕は六本木ヒルズにつとめていたんだけど、この不夜城のなかにも2000人くらいそんな父親がいるなって思ってた。子供を有名幼稚園や小学校にさえ入れておけばいい、その教育費を稼ぐために俺は働いているんだ、子育ては妻に全部まかせて、自分は受験のときだけ出て行けばいい、テストの点が上がったらおこづかいあげよう、みたいな人が。うようよいるんだろうなって。これはちょっとマズいな。もっと違うモノサシを持った父親がいることを発信していかなくちゃって。で、事件を聞いた日、僕はFJの事業計画書を一気に書き上げたんですよ。
お母さんでも、子供の教育にやけに一所懸命な人はいますよね。普段の生活でも、なんかピリピリして育児してる。人と関わるのがうまくないと孤立しちゃうよね。誰も責めてないんだけども、誰も褒めてくれないとやっぱり寂しいね。パパも帰ってこないし。だから、はりねずみみたいに警戒して自分の殻に閉じこもっちゃう。常に他人の評価を気にしている。そのストレスがみんな子供にいっちゃってるんじゃないかな。
想像するにそういう人って、これまで会社でつまんない仕事しかしてこなかったんだろうね。いい仕事っていうか、指示で動くのではなくて自分で仕事を組み立てる面白さを知っている。そこが大事で、それを知らない人は母親になってもマニュアルや情報に振り回されて、よその子に負けじと子供に早期教育して、夢を託しちゃう。子供の学校がブランドかどうかだなんて、キーホルダーみたいなもんじゃない?ちょっと人よりしゃれた携帯ストラップ持ってるっていうレベルの話でしょ。
そんなことに一生懸命な人って、自分の世界を持ってない。軸がない。常に流されてる。だから子育てもそうなっちゃうんじゃないかな。それをぼんやり容認している父親も同じだね。「子供の幸せのために」って思うなら、まずはお母さんお父さん自身が仕事も含めて自分の人生を楽しまなくちゃ。そうやって楽しく生きる親の姿を見せるのが、最高の教育だと僕は思う。今の親の多くはまったく優先順位を間違ってるね。
株価を語れても、子供の友達の名前を言えない父親は失格。
家庭で居場所のない父親って、会社の世界しか知らないから視野が狭い。大事なことを結構見落としているね。
仕事モードでなくて、子供の歩調でゆっくり一緒に幼稚園や保育園に行くと、その途中でいままで見えてなかった道端の沈丁花が見えたりする。そこで立ち止まって、沈丁花の匂いを嗅げる人は、その後、父親としていいところへ行けると思いますね。
日経平均株価のことを語れても、次世代育成や少子化対策のビジョンを語れない父親はカッコ悪い。自分の好きな野球やサッカーチームの選手は2軍まで知っているのに、子供のクラスメートの名前が言えないパパはダメだなーって思いますよ。子供の誕生日すら覚えていない父親もいますね。そんな風だと家族からきっと見放されてしまう。ほんとにそれでいいのかなあ。仕事でいくら成功しても、子育てで失敗したら何もならないと僕は思うけどね。
一度、話を聞けば、誰しも魅了され、いままでの自分をふりかえらずにはいられない説得力。安藤さん独特のユーモアや毒舌が冴え渡り、終始、笑いの絶えなかったインタビューでした。
その哲学は、発売中の本「パパの極意~仕事も育児も楽しむ生き方」においてさらに詳しく読むことができます。皆さん、ぜひお手にとってみてください。
安藤哲也 (あんどう てつや)
1962年生まれ。20代は出版社に勤務。30歳で書店員に鞍替えし、東京・千駄木に往来堂書店を開店。その後bk1や楽天ブックスなどオンライン書店などを経験。2007年4月に父親支援のNPO法人ファザーリング・ジャパンhttp://www.fathering.jp を設立し代表理事に。週末はパパ‘S絵本プロジェクトのメンバーとして、また地元小学校のPTA会長も務める。著書に『本屋はサイコー!』(新潮社)、『パパの極意』(NHK出版)、共著に『絵本であそぼ!』(小学館)がある。雑誌『日経kids+』に「アンドーパパのロックン絵本」を連載中。10歳(娘)と7歳&0歳(息子)のパパ。ロックと本とビールを愛する45歳。「子育て応援とうきょう会議」実行委員。




![働く、育てる、暮らす、いろんな私を楽しむ。[biz-mom]](/images/banner_bizmom.gif)







